肩こりや腰痛といった悩みに対して、鍼灸治療では患部とはまったく関係のなさそうな手先や足先に鍼やお灸をする場面を見かけたことはありませんか?
実は理にかなっている“末端への刺激”
鍼灸では、治療の最初に手足のツボを刺激することがよくあります。これには2つの理由が考えられます。
ひとつは、歴史的な背景です。
鍼灸が発展してきた古代中国では、身分の高い人の体幹(お腹や背中など)に触れることが制限されていました。そこで、治療のしやすい露出した手足の末端部を中心に治療法が発展していったという説があります。
もうひとつは、現代の医学的な視点からもこの方法が理にかなっているということ。
実は、手足などの末端への刺激は、身体全体に反応を起こしやすく、刺激の種類にはよりますが、優しい刺激は副交感神経を優位にしやすく、全身のバランスを整えるのにとても効果的だと考えられています。
刺激する場所で異なる反応
鍼灸では、刺激を与える場所によって異なる反応が期待できます。
- 手足(末端)への刺激は、脳や自律神経を通じて全身の働きを調整し、広い範囲に影響を与える全身的な反応を引き起こすことが期待できます。
- 一方、お腹や背中など体幹への刺激は、特定の筋肉や臓器など、より局所的な部位に直接働きかける効果が期待できます。
この特性を活かして、最初に手足の刺激で全身のバランスを整え、その後に患部へアプローチするという治療方法がよく用いられます。
「前遠刺」「後近刺」
こうした治療の順番を、鍼灸では「前遠刺(ぜんえんし)」と「後近刺(こうきんし)」と呼びます。
これは、「まず遠いところ(=手足)を刺激して全身を整えたあと、近いところ(=患部)に刺激を加える」という方法です。
また、患部とは離れた場所に鍼をする「遠道刺(えんどうし)」という技法もあり、これらはすべて身体の仕組みを利用した、理にかなった治療法なんです。
最新の研究から見えてきた“ツボの効果”
さらに最近の研究では、鍼灸で使う経絡やツボが、筋膜(ファシア)と深く関係していることや、
ツボの多くが、筋肉と腱の境目である筋腱移行部、筋肉の働きをコントロールするモーターポイント、
痛みの引き金となるトリガーポイントなど、重要な身体のセンサーが集まる場所に位置していることが分かってきました。
つまり、経験や感覚だけに頼った治療ではなく、科学的な裏付けもあるということなんです。
木を見て森を見ず
「肩がつらいのに、なんで手に?」「腰が痛いのに、足に?」最初はそんなふうに思うかもしれませんが、それは全身の状態を大切にする鍼灸が大切にしてるアプローチ方法なんです。
痛いところ、症状のあるところだけに注目していては、見えないことがあるかもしれません。症状が慢性化して、なかなか変化がない、改善しない時こそ、一度遠く離れて、全体を見回してみるといいかもしれません。私自身、あまり出来ていることではないですが、とても大切な考え方ですよね。
鍼灸には、まだまだ解明されていない神秘的な一面と、科学が少しずつ明らかにしてきている合理的な効果の両方があります。
もし少しでも興味を持っていただけたなら、ぜひ一度、神明鍼灸治療院へ足を運んでみてください。
筆者:佐久間 渓矢